NiORを訪ねて

金沢市内から車で20分ほど。

駐車場から既に小麦の香ばしい匂いにそそられる。
金沢に来た時は必ず立ち寄る僕のパワースポット的存在、ブーランジェリー「NiOR」。

去年10月に開催し、大盛況(大盛況過ぎて自分は買えなかった)だったあのイベントを今年も開催すべく、打ち合わせも兼ねて久しぶりに訪ねてみた。

前夜には店主・丹尾さんをはじめ、金沢でお世話になっている先輩方とスペイン料理のレストラン「comer」へ。
ここで使っているパンはNiORのものとのこと。
ソースに絡めた時の味わいは素晴らしく、料理と一緒でも存在感があって、それでいてしっかりと脇役。
こうやってパンに焦点をあてた食事は初めての感覚でとても面白いひと時だった。



そして翌朝、対面した丹尾さんはすでに昨夜とは違って「ONモード」。
昨年行ったインタビューはご時世的にオンラインだったため、今回は厨房で彼の仕事ぶりを見ながら、NiORの世界にどっぷり浸かって話をすることができた。

「パンを口に入れた時、お客様が今何を食べているか直感でわかってもらうことがとても大事」。
今回のインタビューで一番記憶に残った言葉であり、丹尾さんがパン作りに対して追求してる視点の角度がとても新鮮だと感じる言葉だった。

要は、明確さが重要。
例えばクロワッサンを口に入れた時にバターの味を感じてもらいたい。
あるいは、サンドイッチを食べているなら「ハムを食べている」実感を与えたい。

「味に余韻があることがとても重要」と、丹尾さんが教えてくれた。



3、4年前に初めてNiORの厨房を案内してもらった時、売り場よりも広い厨房にところ狭しと配置されたヨーロッパのものを中心に揃えた什器のラインナップと、パンの種類によって使い分ける素材へのこだわり(特にクロワッサンに使うフランスバターの芳醇さは素晴らしかった)に感動したのを覚えている。
パンの種類によって焼き窯を変え、ひとつ一つに哲学を感じるストーリーがよりクリアに伝わってきた。



一方で、「最高の素材と正確なレシピが完成すれば、あとは人に任せることができる職種では?」と思う部分も…。
しかしながら、今回の「 味の余韻 」の話を聞いて、なるほど。
緻密さよりも感覚的な部分が最も重要なのか。。。



丹尾さんは毎日厨房にいて、お店の定休日以外は自宅に帰らず2階で寝泊まりするのがルーティーンなのだとか。

「自分は這ってでも厨房に立たないといけない」





厨房で話をしながらも、丹尾さんは「感覚的」に厨房を動き回り、肌で窯の温度をチェックしたり、表面の色味だけで中の焼き加減まで見極めている。
その間にも売り場の動きやスタッフの配慮など分刻み的な配慮をひとりでこなす。
確かにこれは人に教えられる領域ではないかも。。

新しいレシピはシャワーを浴びている時に浮かんできて、そこからはまさに「感覚」でそのアイディアに向かって挑戦していく。
そして、美味しかったらすぐに売り場に並べる。
その判断力はとても生物であり、だからこそ「丹尾さん」という存在がとても重要なのだ。



話は変わるが、NiORのパンは四角いパンも多い。
これにはNiORならではの面白いストーリーがある。
NiORはヨーロッパで買い付けたミッドセンチュリーの家具や什器を使い店内を装飾している。



窓際に鎮座する60年代のフリソクラマーの製図版は、角張った座面と屈折した脚が特徴的なデザインで、この製図版にパンを陳列させた時より美しく見せるため、ここに並べるパンは四角いものが多いのだと言う。



「感覚」と言ってもその深層には哲学的で美学的アプローチがしっかりと見えるのがNiORのパン作りなのだと思う。
帰り際、お土産にと売り場でパンを物色すると、自然と両手いっぱいのパンを買ってしまった。。
そうしたくなる理由は、NiORのパンを見ればきっとわかってもらえるだろう。


NiOR と内山玲 「二人展」

11 /19 (土) - 11/20 (日)
11am – 7pm


groundfloor Gallery 東京都目黒区中目黒1-8-1 2F

お問い合わせ:customer@undm.jp / 03-3794-4037

イベントの詳細はコチラ