とUNDECORATED ―ガラス作家 山野アンダーソン陽子 個展”PICKNICK vol.2”ー Conversation with Yoko Anderson Yamano
とUNDECORATEDでは”PICKNICK vol.2”と題し、ガラス作家山野アンダーソン陽子さんの2度目となる個展を開催します。
2022年に開催した1回目の個展のジャーナル(About 山野アンダーソン陽子)に続き、今回は、山野さんとUNDECORTAEDのデザイナーの河野の対談を通して、スウェーデンでの暮らしや活動に対する想いについて語っていただきました。
◼︎山野さんのストックホルムでの暮らし
UNDECORATED: 10代の頃にお母様に連れられて行ったスカンジナビアの展覧会をきっかけにガラス作品に興味を持ち、高校生の頃にスウェーデン大使館の門を叩いて資料を集め、そこから日本の大学を卒業後にスウェーデンのガラスの王国・スモーランド地方で技術を学び、ストックホルムの芸大で修士号の取得。卒業後はスウェーデン国内に共同工房を構えるガラス作家になった、という山野さん。まずは、ストックホルムでの暮らしについて聞かせてもらえますか?
山野氏(以下山野):ストックホルムはなんといっても過ごしやすい気候が特徴です。夏でも25℃くらいしかない感じ。陰に入ると少し寒さを感じるレベルですね。そして、湿気が少なくカラッとしています。
冬は寒いのですが、室内は常に20℃〜25℃くらいあるので、室内では半袖で過ごすこともあります。そんな環境で暮らしていると、「日本でガラスを制作されている方は凄いな」と改めて実感させられます。
河野:なぜそう思われるんでしょうか?
山野:ガラス工房の中って物凄く暑いんです。ストックホルムは気温も湿度も低いから、暑いガラス工房の中でも比較的快適に制作をすることができているのですが、日本はとにかく湿度が高い…。へばりつくような暑さの中で制作をされている方々には脱帽です。私なら絶対に耐えられないな、と思います。(笑)
河野: 僕も今夏、デンマークに行く機会があって、コペンハーゲンに滞在してきました。おっしゃる通り、過ごしやすい気候でした。
ちなみに僕は海外旅行や出張の時は出汁の味が恋しくなるのでインスタントのお味噌汁を持ち歩いているんですが、山野さんは日本食が恋しくなったりされますか?そちらでもよく日本食を作ります?
山野:実はわたし、海外の生活と日本で暮らした時間が五分五分くらいで、自炊を開始したころにはもう海外に住んでいたんです。日本に住んでいたのは子ども時代なので、お手伝いの経験くらいで…。だから、たまに日本食を作ることはあるけれど、あまり「よし、作るぞ!」とならないんですよね。日本食を作るための良い材料がなかなか手に入らないのも理由のひとつかもしれません。(笑)
普段の食事で言うと、スウェーデンのジャガイモってすごく美味しいんですよ。日本ではお米にたくさんの種類がありますが、それと同じで、こちらではジャガイモにもたくさん種類があって、マッシュポテトにする用やオーブンで焼く用など、メニューによって使い分けています。
あとは魚は脂が乗っていて美味しいです。外が寒いので煮込みなどのスープにして食べることが多いですね。
でももちろん、お味噌汁が飲みたくなったり納豆や豆腐が恋しいなと思ったりすることはあります。
河野:やっぱり過ごしてきた環境で食に対する思考って変化するものなんですね。ちなみに休日は何をして過ごされることが多いですか?
山野:わたし、掃除魔なんです。(笑) 掃除を日課にしているのですが、休みの日は「とことん掃除しよう!」ってなりますねー。
あとは、副菜の煮込み料理を作ります。忙しい時はどうしても一品のみになってしまう、なんてことあるじゃないですか。私はそれが嫌で、食卓に彩りや華を添えてくれる副菜の煮込み料理を2種類くらい作って、5日間くらいに分けて食べていますね。
ちょっと長めの連休にはお出かけもします。先日は子どもが1週間ほど秋休みだったので、友人に会いに2人でセルビアに行ってきました。セルビアで最も重要な現代アート展と言われる「オクトーバー・サロン」の会期中だったので、街中もアートにあふれていました。
◾️山野さんからみた日本とスウェーデンの「違い」は?
UNDECORATED:ストックホルムと日本ではずいぶん過ごし方が違うんじゃないかと想像します。先ほど、お子さんとお出かけした、という話も出ましたが、ストックホルムで子育てをされている経験から、日本の生活や教育との違いについて印象的に感じたエピソードはありますか?
山野:スウェーデンは気候的には凄く快適だけど、四季を楽しむという文化はあまりないかもしれません。
その点、日本には四季があって、「春にはこれを食べる、秋にはこういうものを食べる」といった季節ごとに楽しむ文化があるじゃないですか。私も帰るたびに「この時期だからこれ食べよう、あれをしよう」なんて考えますね。日本ではその時期の食事ごとに使う器にも変化があるし、そこはおもしろい違いだと感じます。
スウェーデンでは実は洋服にも季節感があまりなく、それには凄く驚きました。日本だと「リネンだと春夏、ウールだと秋冬」というようなマテリアルの概念があるじゃないですか。でもこちらだと、夏でも「寒い!」となったらウールのカーディガンなんかを肩にかけたりするんですよね。あとはガラスで熱いカフェラテを飲んだりするのもこちらではよく見る光景です。(笑)
河野:前回の個展の際に、「夏は友人たちと外に出て食事をすることが多い」とおっしゃっていたと思うのですが、やっぱり気温が下がってもよく外に出掛けられるんですか?
山野:スウェーデンは秋が1週間くらいしかないんです。そうしたこともあり、たとえ外の気温が1℃だとしてもギリギリ楽しむために、「毛布に包まりながらでも外でバーベキューをしたい」という人もいるくらいです。その時期を逃すとマイナスの“極寒の世界”になるので、「今できる時にやりたい!」という考えをお持ちの方が多いですね。
河野:レストランでもテラスや軒先など、オープンエアな場所で食べることが多いですよね?
山野:そうなんです。寒いのに「外で食べよう」と言われることが多くて、正直なところ「勘弁してほしいな」と思ったりします。(笑)
ストーブを外に出して、ブランケットを掛けてでも外で食べるんですよね。私は室内派ですが中で食べるか外で食べるか、いつも多数決で負けちゃいます。
河野:東京でも過ごしやすく気持ちの良い時期なら外で食事をする人が増えている印象です。
話は変わるのですが、ストックホルムでの”教育“についても気になります。
山野:子育てをしていて違いを感じた点は、一人ひとりの学びのスピードに合わせている、という点ですね。
例えば、算数の計算が得意な子とそうでないない子なら、教科書も学ぶスピードも分けられているんです。あとは子どもの主体性が育やすい環境が整っている、と感じています。
例えば、日本で「三者面談」といえば、先生が子どもと親に評価や学校での態度を伝える、というイメージだと思います。しかし、私たちの周りでは子どもが両親と先生に対して、「自分はどの様なことを頑張ったのか」をプレゼンするんです。そのお陰か、皆ディスカッションやプレゼンがとても上手で、子どもの主体性が育っていることを実感します。
河野:山野さんご自身の子育て論のようなものはありますか?
山野:シンプルに「元気が一番」ということですかね。健康面ではもちろん、精神面でも元気なことが子育てにおいて最も大切なように感じます。
◼︎ガラス作品の“魅せ方”と“楽しみ方”
河野:2024年春のことですが、18人の画家さんとコラボした展覧会を日本で開催されましたね。*注
山野:あの展覧会は、私の中では、「グラステーブルウェアを違う視点で考えてみましょうの会」というふうに捉えた展覧会でした。食器に対して知識がある人もあまり触れたことがなかった人も、様々な視点でグラステーブルウェアを自由に感じ取ってもらって、結果として少しでもガラス産業が盛り上がれば良いな、と考えてはじめたものです。
ガラス業界もそうですが、特に「手で作られたもの」は技術の積み重なりの上に成り立っていますが、機械で同じようなものができちゃったりすると「私たちはもう用なし」になってしまいかねないと思うんです。
極端に言うと、「こっちのグラスとこっちのグラス、こっちは人の手で作られてこっちは機械で造られています」と説明されても、「どっちもちゃんと飲めるじゃん」となったら、その2つの間の差を皆さんに見出していただけなかったら、「(手で作ったものの方は)値段が高い」という違いしかなくなってしまう…。
では、「職人は何のためにこうして技術を磨いて、研鑽を重ねて技を極めていく必要があるのだろう?」とーー。
私たちのエネルギーや作り上げられるまでの時間の深みが結局のところ伝わらなくて、愛好家たちだけが集まって「これ凄いじゃん」と言ってはいるものの、一般の方々には届けられていないというのが、特に今のスウェーデンの産業に元気がない原因のひとつでもあって…。そこを打開して、どうにかこうにか違う形で広めていきたいな、と思った時に立ち上げたのがあのプロジェクトだったんです。
自分ではリーチできない多くの方に見ていただくことで、ちょっと自分たちの使っている食器が気になってみたり、レストランやバーに行った時に今までは飲み物や食べ物に焦点を当てていたけど「なんだかグラスが気になるな」って眺めてみたりするところから、少し変わっていくことがあるのかな、という期待を抱いていました。
河野:僕も見に行ったのですが、すごく見応えがありました。
ポップアートのように決して分かりやすい展示ではないとは思うのですが、グラステーブルウェアといういわゆる「日用品」が写真や絵画などアートのフィルターを追加することで別の価値を感じることができるし全く違う見え方に変わりました。あと、山野さん作品にコメントしているキャプションも独特で笑いました。(笑)
山野:ありがとうございます。(笑)
もう少し踏み込んだ話をすると、あの展覧会を鑑賞する方々の思考を信じようと思ったんです。だからあえて展覧会の見方を決めずに、それぞれご自身で噛み砕いてもらって、少しでもガラス作品に対する見方や思考が変わったらいいな、という想いを託しました。
きっと、お気に入りのキャラクターの展覧会があったら皆が行きたくなるだろうし、どんな展示がされていても楽しいし、嬉しくなると思うんです。一方で、ガラスってどのご家庭にもあるし、どこにでもあるから、それをどういうふうに見せるか、ではなく、思考の部分でおもしろみを見出してもらえたら、と。
結局のところ「楽しい」という感覚って自分自身が触れたものをどう受け取るか、じゃないですか。あの展示もおもしろいと感じてくれる人もいれば、そうではなかった人もいるかもしれない。その結果はあれど、「歩きながら展示を見て、お一人おひとりがきっと何かを思考するんじゃないか」って信じて展示をさせてもらいました。
「こう見るものです」って私たちが決めたところで違う見方をする人はするし、一方で、見た目のガラスの良し悪しって外見だけではわからないことっていっぱいあるし…。
自分だってはじめのころから5年ぐらいで気付けなかった「ガラスの良さ」が20年やった今になって気付いたり、手先の感じが変わってきたり、そういうのってどんな職業でもあると思うんです。
自分が何かを知ると、今まで好きじゃなかったところが好きになったり、違った見え方になったり、と。そういう変化があるのだと思います。そんなことをチームであるフォトグラファーの三部正博さんとグラフィックデザイナーの須山悠里さん、キュレーターの方たちと話し合いながら作り上げた展覧会でした。
河野:山野さんの作品はニュートラルでシンプルじゃないですか。作品を通して作者の思考を加えることで様々な見方ができるのは凄く興味深いですね。
【*注】
山野氏の作品を収録したアートブックを制作するプロジェクトの一環として開催された展覧会「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」。
18人の画家自身が描きたいと思うガラス作品を言葉で表現しその言葉をもとに山野氏がガラス作品を制作。そのガラス作品を画家が描き、それぞれの画家のアトリエにてそのガラス作品と絵画をフォトグラファーの三部正博氏が撮影、グラフィックデザイナーの須山悠里氏と共にアートブックにしたもの。
◼︎TEMBEAとのコラボバッグについて
UNDECORATED:今回、TEMBEAさんと山野さん、弊社とのコラボバッグを2種類出すことになりました。山野さんのこだわりのポイントを教えてもらえますか?
山野:2つあって、まずは「肩掛けができる」ということ。2つ目は「2脚〜3脚のワイングラスが入る」ということです。
「ちょっとそこの公園でワイン飲まない?」みたいな感じでラフに持てるバッグにしたかったんですよね。そうなると肩掛けの方が楽だし、4脚のワイングラスが入る容量を、という話も出ていましたが、ラフにピクニックを楽しんでもらえる様に2脚〜3脚のワイングラスが入る容量を提案しました。
河野:凄く良いものが仕上がりましたよね! UNDECORATEDからは、ワイングラスとボトルを入れるクッションをUNDECORATEDのリネンで作らせていただきました。
バッグの内側にはブランドタグが3つあって、山野さん用に無地のタグを用意しているのでぜひ手書きでサインしてくださいね!
山野:内側にタグがたくさんあるの、とても可愛いですね。(笑)
現物を見られるのが本当に楽しみです。個展もとても楽しみにしているので、たくさんの方に来ていただけると嬉しいです。
とUNDECORATED ―ガラス作家 山野アンダーソン陽子 個展”PICKNICK vol.2”ー
【開催日程】
11/23(土) - 12/1(日)
1PM - 7PM
*作家在廊予定日:11/23 (土)
【開催場所】
groundfloor Gallery
東京都目黒区中目黒1-8-1 2F
※イベント当日に関するご注意※
・販売商品はなくなり次第終了となります。ご了承ください。
・混雑時はお待ちいただく場合や一部販売数を制限させていただく場合もございます。あらかじめご了承ください。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
山野アンダーソン陽子
2001年よりガラス産業のメッカでもある南スウェーデンのスモーランド地方、フィンランド、ベネチアにてガラス製作技術を学ぶ。2004年、Konstfack(国立美術工芸デザイン大学)セラミック・ガラス科修士課程在学を機にストックホルムに拠点を移し、現在グスタブスベリにアトリエを構え、ガラス制作の活動の場としている。2011年、ストックホルム市より文化賞授与。2014年、スウェーデン議会が作品を貯蔵。EUのみならず、イギリス、セルビア、日本などでも作品を発表し、ライフワーク「Glass Tableware in Still Life」の活動にてガラス食器のあり方を多方面から表現思考する。
Instagram:https://www.instagram.com/yoko_yamano/?locale=ja_JP
Website : https://bit.ly/3YevAx8