内側から見るUNDECORATED #3

前回はリブランディングの背景やコンセプトづくりについてデザイナーの河野に聞きました。 今回は服作りに対する想いや素材へのこだわりについて聞いていきます。


――他のブランドと差を付けるために何か工夫していたことはありますか?

河野:やはりオリジナルの素材作りに挑戦し続けることですね。ブランドを引き継いだ当初は目立つためにあえて高級な原料を使ってベーシックなものを作ろうと、シルク100%の洗える天竺やカシミヤ100%の吊り裏毛などを作っていました。それがPRに繋がるかなと思って。「シンプルだけど面白い素材を作っているブランドだ」と思われたかったっていうのはあります。

でも原料自体が高いので現実的な値段で販売するのはなかなか難しくて。ブランディングを確立するために何シーズンかはトライしてはみたのですが、コスト的に厳しかったです(笑)

今はシンプルでも目立つためのトピックがある素材を作るということよりも、意義のある素材作りを目指しています。袖を通した時の感動があって価格も現実的。そして長く着ていただける素材を作りたいです。ブランドをやっていくうちに、素材作りも自分を含めその人のライフスタイルに寄り添った作り方に変化していきました。


↑2018年に作ったカシミヤ100%の吊裏毛


――廃棄食品での染色やオーガニックコットンを使った服作りをしていますが、そのあたりへのこだわりは何がきっかけだったのでしょうか?

河野:最近ではサステナブルやオーガニックという言葉をよく耳にしますが、僕がブランドを始めた当初はそれほど認知度が高い言葉ではありませんでした。

素材を作る上での原料は天然素材に限定していました。オーガニックコットンのような環境に配慮された素材を好んだのは…もとを辿れば母親の影響でしょうか。そのあたりのことを気にする人で、小さい頃から馴染みがあったんです。

母親のオーガニックへの意識は高く、野菜は無農薬が多かったり子どもの頃にはコーラやジュース、着色料が入ったお菓子はあまり与えてもらえずしっかり制限されていましたね。 赤いウインナーが入った友達のお弁当や、当たり前のようにコーラを飲む様子がすごく羨ましかったのを覚えています。 今考えてみると、僕はすごく健康に気を使って大切に育ててもらったのだと分かるのですが、やっぱり子どもの頃はちょっと恥ずかしかったですね。(笑) 少し脱線しましたが、サステナブルへの意識は僕自身の幼少期が関係しているのだと思います。


――いつも素材はどのように作っているのですか?

河野:まず、ノープランで生地屋さんとか旗屋さんに相談しに行くところから始まります。当然のことですが、彼らのほうが生地の作り方に関しては詳しいですからね。そこから色々教わりながら試行錯誤して開発していきます。

0から素材を作るときは完成形が見えないので、すごく難しいんです。ぼんやりしているイメージがあって、そこに対して信じて突き進んでいく感じですね。 やったことないことをやろうとするのはリスクもありますが、その分楽しさもあります。生地屋さんも愚痴を言いながらも皆さんおもしろがって協力してくれています。

僕は、「高級素材=良い素材」とは全く思っていなくて、袖を通した時に人がどう思うかが大切だと思っています。素材の作り方に正解や不正解は無いと思っているので、たとえ邪道な作り方でも納得のいくものが仕上がったらもちろんそれを使うし、ダメだったら修正を重ねます。実際に生地になってみないと分からないことが多いので、今までにも何度も失敗しています。


――以前、「UNDECORATED」の服は素材のいいところを生かすことを念頭にデザインしている」といった話をしていましたね。素材を決めてからデザインをするというのは、素材が完璧に仕上がってからデザインを始めるということですか?

河野:実際にはどういったカテゴリーのアイテムを作りたいとかばっくりとしたイメージは最初からあります。素材を作り始める段階で「コートだな、シャツだな」とか。

服を作る工程の中で一番素材作りに時間を費やしていて、出来上がるのに1年以上かかる素材もあるので、その頃には落とし込むアイテムもガラッと変わっている時も少なくありません。

そして、素材が完成してからより細かいディテールを決めていきます。全体のシルエットや縫製の始末、裏地はいるのかステッチはどうするかとか…。完成した生地を見て、素材のためのデザインの最終形を決めています。




――素材作りに6ヶ月もかかっているんですね。では、色展開はどのように決めているのでしょうか?

河野:ブランドにとって色決めは最も大切にしているカテゴリーのひとつです。 布や糸として既に存在しているものからは色出しを行わないようにしています。 微妙な差かもしれませんが、既に繊維として存在している色味はどこかで誰かがその色の服を作っていると思うのでとてもシンプルなブランドなので他にはないような色味を出すことを心がけています。

日常に色はたくさん溢れているので写真集や本で見つけた紙とか、街を歩いていてたまたま見つけた花の色を写真に撮ってプリントアウトした色味がステキだったらそれをそのまま使ったり、とにかく繊維じゃない物質から探してきます。色味はなんとなく並べて見てバランスを見ながらそのシーズンに合いそうなバランス、素材に合いそうな色味を当て込んで行きます。

服自体はすごくシンプルでプレーンだけど、素材や色は他にないものにしたいという想いが強いですね。


――洋服として出来上がったあと、販売する前に河野さんが必ず着て試していると聞きました。どんな意図があるのでしょうか?

河野:もちろん全ては着て試す事はできないのですが特に原料から作った素材は試すようにしています。「触り心地は良いけど着ていくと納得いかなくなるとか最初は良いけど繊細すぎてすぐ伸びてしまう」といったことって実際に着てみないと分からないですよね。 最初だけ良いといったことがないように、完成した服は数カ月はなるべく試してから世の中に出しています。 お客様が実際に袖を通した時に感動していただけるように、そして僕の服を着て過ごす日々のことも想像して、修正を繰り返して本当の意味でひとつの服を完成させています。




――何度も修正を重ねて洋服が完成して一番嬉しい瞬間はいつですか?

河野:服を買って着てくれた人があと、「着心地が良くていつも着ています」などと着た後の感想を言ってくださる時ですね。服を見た瞬間に「可愛い!絶対買う!」って言われるよりも着た後の感想をもらった方が断然嬉しいです。

素材も含めて認められたということですし、素材にあったデザインだったという結果でもあると思っています。「着心地がいい」と思ってもらえるものを素材としてもデザインとしても作っていきたいですね。


これまで3回にわたり「内側から見るUNDECORATED」はどんなブランドなのか、デザイナーの河野に聞いてきました。今後は長年お世話になっている工場さんや生地屋さんなどについて聞いていきます。